筑後川マラソンの必要水分補給量予測

 今は秋のマラソンシーズン真っただ中である。マラソンで難しいものの1つが水分補給だ。その必要な量や内容、タイミングは天候によって大きく変わり、これを誤るとパフォーマンスにも影響する。

 これから3週間ほどの間に、マラソンで必要な水分補給の量を予報してみよう。

 対象は以下である。
  1)筑後川マラソン(10月29日(日))
  2)富山マラソン(11月5日(日))
  3)福岡マラソン(11月12日(日))

 今回は筑後川マラソンを対象とする。

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筑後川マラソンのコース概要

 フルマラソン(42.195㎞)コースに関しては、百年公園河川敷をスタートして筑後川左岸の河川敷を東進、うきは市の朝羽大橋付近で折り返して河川敷を逆に西進してスタート地点に戻ってゴールとなる。公式HPに表示されるマップには、河川敷コースのため高低差が少ない一方、天候による影響を大きく受け、晴天時には日光を遮るものがないために紫外線・熱中症対策が必要な旨が記載されている。給水所は3㎞ごとに設置されている。その他、ハーフ、10㎞、5㎞、3㎞、1.5㎞(障がい者用)が設置されている。
 2023年は10月29日(日)に開催、スタート時刻は午前8時30分である。

 公式HPに掲載の地図を引用すると以下のようになる。


 動画付きの地図は以下のとおり。ここに高低差も図示されており、最低標高5m、最高標高23m、高低差18mとなっている。なお、獲得標高(※1)はわからない。
https://gcy.jp/mrt/chikugo.html

 以下の推定では、獲得標高は若干のアップダウンも考慮し25mとする。スタートとゴールは同一地点のため、スタートとゴールの高低差はない。

※1:登った高度の累積の合計。一部サイトでは、「累積標高」と呼ぶこともある。500m登るコース、300m下るコースでは、獲得標高は差し引きの「200m」ではなく、「500m」になる。

推定の流れ

 以下の流れで推定する。
 (1)ペルソナの設定(体重、走行速度)
 (2)複数地点の特定時間のWBGTの推定
 (3)上記からの脱水量の推定

 なお、脱水量の推定は、私が試作した以下のアプリのWEB版によった。私自身の2022年の走行と脱水、気象条件の関係から推定した式に基づいて計算している。

https://sportdgstaka.world/runningdehydsim.php

ペルソナの設定

 本件に合わせて言い換えると、「どのような条件の人が、どのようなペースで歩行するか」を設定する。設定内容は以下のとおり。なお、荷物の重量はないものとした。
 体重:65㎏
 走行ペース:時速10㎞→1㎞あたり6分00秒のペースになる。
 1時間後に10㎞地点、2時間後に20㎞地点、3時間後に30㎞地点、4時間後に20㎞地点を通過、4時間13分10秒後にゴール

 体重は以下のサイトから、標準的な市民ランナーの体重を想定した。
(一般人平均70㎏、市民ランナーはそれより5~6㎏少ない)
 https://www.yspc-ysmc.jp/ysmc/column/health-fitness/run-2.html

 走行ペースは、計算しやすい数字にした。8時30分スタートとなると、1時間後の9時30分で10㎞、2時間後の10時30分で20㎞…は分かりやすい。

天候(WBGT)の予測

 脱水量に関連が高い気象指標はWBGT(暑さ指数)である。WBGTは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい以下の3つを取り入れたものである。
 湿度  日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境  気温

 元来は黒球温度、湿球温度、気温から計算するが、以下の近似式(※2)でも推定することが可能である。

0.735×Ta+0.0374×RH+0.00292×Ta×RH+7.619×SR-4.557×SR^2-0.00572×WS-4.064

Ta:気温(℃)、RH:相対湿度(%)、SR:全天日射量(kW/m2)、WS:平均風速(m/s)

※2:式の出所は以下の通り。なお、この式は、環境省「熱中症予防情報サイト」上でのWBGT予測にも用いられている。
小野雅司ら(2014):通常観測気象要素を用いたWBGTの推定.日生気誌,50(4),147-157. doi:10.11227/seikisho.50.147

 本件では、以下の流れで推定した。

・スタート/ゴール、10㎞、20㎞、30㎞、40㎞地点の緯度・経度を入手
・気象データのオープンソース「OPEN-METEO」サイトから、上記各地点における到達時刻に近い気象データの予測値を取得。なお、同サイトでは、緯度・経度を入力すれば、当該地点の気象データの予測値(最大16日先まで)を1時間刻みで入手することが可能。ただし、●時00分のWBGTしかデータがない。
・これより、上記各地点の入手データ値は、以下の時間帯のものになる。地点ごとに2時点のWBGTを求め、その平均を各地点の●時30分時点のWBGTとする。

 スタート/ゴール-8:00、9:00→2時点のWBGTの平均を8:30のWBGTとする。
 10㎞-9:00、10:00→2時点のWBGTの平均を9:30のWBGTとする。
 20㎞-10:00、11:00→2時点のWBGTの平均を10:30のWBGTとする。
 30㎞-11:00、12:00→2時点のWBGTの平均を11:30のWBGTとする。
 40㎞-12:00、13:00→2時点のWBGTの平均を12:30のWBGTとする。

 ゴール時点のWBGTは、計算が難しいうえに40㎞と近接するので省略する。

 図示すると以下のようになる。

 ここから推定したWBGTは、以下のようになった。なお、日本時間10月17日深夜の時点の予測値なので、開催までに今後数値は若干の変化がある。
 スタート(8:30):16.9℃  10㎞(9:30):18.2℃
 20㎞(10:30):19.3℃   30㎞(11:30):20.0℃
 40㎞(12:30):20.3℃
 平均:18.9℃

脱水量の予測

 最初に設定したペルソナ、歩行/休憩時刻に応じた各区間/チェックポイントのWBGTをもとに、ペルソナ(体重65㎏)に関する脱水量を以下に推定した。なお、計算は私自身の走行/脱水履歴を踏まえたものである。

 5.1ℓ
 (幅を持たせて)
 50%の確率で4.7~5.5ℓ
 70%の確率で4.5~5.6ℓ

 水分補給がない場合だと、1時間余り(10㎞ちょっと)で脱水率が体重比2%となりパフォーマンスの低下が目立つようになる。

必要な水分補給量の予測

 ゴール時点で体重比2%までの脱水を許容する前提に立つと、ゴールまでに必要な水分補給量は、
 5.1ℓ - 65㎏ × 2% = 3.8ℓ となる。

 この場合、差し引きの1.3ℓは、走行前後で補給しておく必要がある。1時間あたりの量は約900㎖超となり、体内への吸収の観点からは飲むことができる最大値に近い水準になる。
これだけの脱水量になると、スポーツドリンクを用いても塩分やミネラルの走行中の完全な補充は難しい。走行後に改めて補充する必要がある。そして、糖分の多いスポーツドリンクの過剰な摂取も、カロリー摂取の役割はあるとはいえ、歯の健康を考えれば避けた方がいいだろう。

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