科学的にも非合理な「業務中の水分補給禁止令」

 旧ツイッターで以下のようなツイートを見つけた。今回はこのツイートからの気づきである。


 スクリーンショットでも示しておこう。

 
 要は、夏に働く営業職に対して「業務中の水分補給禁止」が命令されたわけだ。
 当時、この方は、夏の間も長時間外出して歩き回ったとみられる。上記指導は非科学的で健康に悪いのは言うまでもない一方、当時は「これだけの水分補給が絶対に必要」という科学的数字や根拠もなかったであろう。
 上記ツイートは、私が観た時点で4.1万の「いいね」を得るなど実際に多くの反応を得ている。そして私自身も興味深く感じた。今書くのは「季節外れ」かもしれないが、今回はこのツイートをテーマにしたい。

 実際に、ここに書かれている営業職の方、すなわち「ペルソナ」の方は、どれだけの水分補給が必要だったのだろうか?この材料があれば、精度は高くなくとも、当時の上司に科学的な証拠を出して反論できていたはずだ。
 この書き方だと前提としてあまりに抽象的なので、ここで一旦前提条件を設定する。WBGT、METsといった聞きなれない人も多い言葉の詳細は末尾を参照。

(1)9時~18時のうち1時間休憩を除く8時間労働
(2)外で働く時間4時間、空調の効いた環境(オフィスや電車内)にいる時間4時間
(3)外出時の平均WBGT(※1)は30℃
(4)空調下での平均WBGTは23℃
(5)5時間は歩行などである程度動き、3時間は打ち合わせやデスクワーク
(6)動く時の平均METs(※2)は2.5~3METs
(7)打ち合わせ・デスクワーク時の平均METsは1.5METs
(8)ペルソナの体重は70㎏

詳細は以下。
*******
(3)の詳細
暑い夏の日を想定した。このWBGTは、環境省熱中症予防サイト上の基準では31℃以上の「危険」一歩手前の「厳重警戒」のレベルである。
例えば、2023年8月3日の東京のWBGTは以下の通り(環境省熱中症予防情報サイトの公表データによる)
9:00-31.7℃ 10:00-29.3℃ 11:00-31.9℃ 12:00-31.8℃
13:00-30.8℃ 14:00-31.6℃ 15:00-31.7℃ 16:00-30.3℃
17:00-27.8℃ 18:00-26.8℃
上記平均:30.3℃

(4)の詳細
下記調査によれば、夏のオフィスの冷房温度の平均は26.2℃で、26℃の回答が最も多い。


夏季の空調での湿度の設定は、40%~70%が望ましいとされている。この平均は55%。
気温26℃、湿度55%の場合の概算のWBGTは、「日本生気象学会: 日常生活における熱中症予防指針 Ver.4, 2022」による簡易推定図に基づけば、「日射がない室内」であることを条件として22℃になる。
ただし、現実には一定の日射も入る可能性が高い。この点を考慮し23℃に推定した。
なお、検索で出てくる類似の推定図には、気温26℃、湿度55%の場合の概算のWBGTを23℃としているものも多い。

(6)の詳細
以下のWEB記事によれば、徒歩による移動2.5METsで計算している。ただし、階段や早歩きの場合は3.5~4METsで計算している。

スポーツ庁Web広報マガジン
「あなたの1日の身体活動を「運動強度(METs)」で見える化しませんか!」2022年9月27日 12:00


また、国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」(2012.4.11改訂)は、以下の歩行のMETsを2.5METsとしている。
・家から車やバスまで歩く、車やバスから職場や目的地まで歩く
一方、一般的な散歩は3.5 METsとしている。

(7)の詳細
上記「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」(2012.4.11改訂)は、以下の作業のMETsは1.5METsになるとされている。
・座位作業:楽な労力(例:オフィスワーク、化学実験、パソコン作業、簡単な組み立て作業、時計の修理、読書、デスクワーク)
・座位での打合せ:楽な労力、全般、談話を含む(例:食事をしながらの打合せ)

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 上記前提で脱水量の概算を行う。ペルソナが勤務時間中に体感する平均のWBGTは以下の通り。
  ( 30℃ × 4h + 23℃ × 4h ) ÷ 8 = 26.5℃

 平均のMETsは以下の通り。
  ( 2.5~3METs × 4h + 1.5METs× 4h ) ÷ 8 = 2~2.25METs

 運動量と脱水量の関係は、2022年時点で私自身がランニングと体重変化の記録で調べて求めた相関に準拠してみた。簡単にいえば、汗のかきやすさは「2022年の私と同じ」ということになる。
 この結果、このペルソナの業務中の脱水量は、3~3.4ℓに推定される。確率の観点を踏まえ幅を広げて考えれば、70%の確率で2.6~3.8ℓの幅になるとみられる。体重比で3.7~5.4%になる。体重比2%の脱水でパフォーマンスが明確に落ち、同3%の脱水下でのパフォーマンスは飲酒運転レベルになることから、危険な数字だ。
 食事からも一定の水分補給はでき、またこのペルソナはおそらく休憩時に昼食を食べるだろうから、この分の水を改めて飲む必要は確かにない。それでも大きな数字である。真水だけの水分補給ではミネラルの流出が大きく、スポーツドリンクなどの併用も考えないといけないかもしれない。
 スポーツ選手やエッセンシャルワーカーでなくとも、また空調下に一定の時間いても、特に夏季は脱水量が想像以上に大きくなることがこの概算だけでも見えてきた。このペルソナの営業職の場合、「水分補給は禁止」という当時の上司の命令は、科学的に間違っていることが数字上も裏付けられる。
 脱水量や水分補給の科学的根拠の把握は、多くの人にとって自分の労働環境を守ることにもつながるといえる。

(※1:WBGTとは)
 環境省「熱中症予防情報サイト」から主要部分を引用した。

暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。 単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。 暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標です。 なお、当サイトにおいては気温との混同を避けるため、暑さ指数(WBGT)について単位の摂氏度(℃)を省略して記載しています。

 詳細は以下。


(※2:METsとは)
 厚生労働省「e-ヘルスネット」から主要部分を引用した。

メッツとは運動や身体活動の強度の単位です。
安静時(静かに座っている状態)を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。

 詳細は以下。


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科学的にも非合理な「業務中の水分補給禁止令」” に対して1件のコメントがあります。

  1. Velma Ripley より:

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