新スタジアムに今後求められるもの-反対、障害を乗り越えるために-

 つい最近目に留まった記事の1つを紹介しておこう。


 これは、海野一幸氏(ヴァンフォーレ甲府元社長)、眞壁潔氏(湘南ベルマーレ代表取締役会長)、木村正明氏(ファジアーノ岡山オーナー)の鼎談を記事にしたもので、テーマはサッカー専用スタジアムの建設であった。その中で出てきたコメントからタイトルに直結するものを取り上げると以下のようになる。

司会「どうしても建設費の問題が出てきます。そのためには自治体の協力、理解は必要だと思いますがなぜかサッカーのスタジアムに関しては――野球場よりも――箱物批判がついてまわるように受け止めています。木村さんは建設に向けて動かれていますがどう思われますか?」

木村正明(ファジアーノ岡山オーナー)「私が調べたときに日本に野球場は610あって、このとき反対運動は起こってないんですね。サッカー場(専用スタジアム)は当時十幾つか。そこから増えていますが、例えば剣道場や武道館の建て替えなどはすんなりいっています。サッカー場となるとこれが途端に反対運動が起こりやすい。」

 これに対して、野球の方にも新球場建設が進まない課題を示した以下の記事がある。

 同記事には以下のようにある。

新球場に関して県企画課は「豪雨災害の対応などほかにも課題があり、優先順位として高くない」と説明。検討は進んでいないのが現状だ。
県球界では、各団体が折り合いをつけながら主催試合の会場を確保してきた。それでも、21年に独立リーグの火の国が発足し、球場不足はより深刻化した。

 「新しい競技施設への競技側のニーズ」「財政、市民ニーズからの反対の目」野球VSサッカーの問題以前に、どの競技にも共通して、この問題があるような気がするのだ。

「野球VSサッカー」の話ではない

 まず「野球場が先かサッカー場が先か」これは旧施設の建設時期や施設状況、さらに市民ニーズも反映されて地域の状況に応じて決まるもので、一概に片方が「ひいきされている」「反発の声が少ない」と決められるものではないと思う。例えば、福岡県北九州市では、サッカー・ラグビー専用スタジアムの「ミクニワールドスタジアム」が2017年に新設されたのに対し、野球場の北九州市民球場は1957年に建設され、移転の話やニーズのことは聞かない。北九州市の場合、Jリーグギラヴァンツ北九州にとって昇格後の施設要件を満たすスタジアム、サポーターとってもよりアクセスしやすく見やすい専用競技場のニーズが高まったことが、スタジアム新設につながったはずだ。
 もっとも、サッカーの人気が拡大した時期は野球に比べて遅く、その間経済状況が変化したために、サッカー目線からは「うちの方に反対が多い」と見えるところはあるのかもしれない。

競技側の新施設ニーズの高まり

 スポーツの目線に立てば、新しい競技施設へのニーズが高まっている。その背景にあるのが、プロスポーツの地域密着の動きであり、プロをはじめとするスポーツチームの地方への拡大であろう。日本では、その起点となったのがサッカーであり、1993年に始まり今年で30年目を迎えたJリーグといえる。「Jリーグ百年構想」のもと、サッカーをはじめとするスポーツ文化の拡大、地域密着型のクラブ、リーグづくりをうたったJリーグは、今や40都道府県に58チームが存在するまでになった。その動きは野球にも拡大、各地で「独立リーグ」が結成され、リーグ戦が行われるようになった。「地域密着」これは今や各スポーツのキーワードで、プロ野球球団数が12から増えない野球、関東圏にリーグワンのD1チームが偏在するラグビーはこの点批判的にみられることもある。
 これに対応して、各チームの本拠地などの競技施設のニーズは増えている。これだけでなく、施設に求められるニーズも増えている。例えば、Jリーグでは、J1で15,000人以上、J2で10,000人以上、J3で5,000人以上の競技施設の要件「Jリーグスタジアム基準」がある。その基準の内容は、A4にして4ページにわたり、詳細なものである。このスタジアム基準を満たさなければ、チームが成績を残しても上のリーグに昇格できない場合がある。
 こうした動きは、Jリーグ創設直前からの30年余りのスパンで起こったものと言えよう。

厳しい財政・経済情勢と人口動態

 これに対して、スタジアム整備のよりどころとなる地方の経済・財政情勢は厳しくなっている。総務省によれば、地方自治体の日本の地方自治体の財政力指数(基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値)は2021年度時点で0.5と、収入が財政需要の半分しかない状況だ。この指数はバブル崩壊直後に低下した後大きな改善を見せず、東京都などの大都市圏とそれ以外では財政状況に大きな差がある。
 少子高齢化も深刻になっている。2022年の日本の総人口は12年連続の減少、生産年齢人口(15~64歳人口)が総人口に占める割合は前年に並び59.4%と過去最低、65歳以上人口は29.0%と過去最高になった。
 この間、日本経済の国際的な地位も低下している。時価総額企業数、1人あたりGDP…と、30年余りで低下した指標は数多くある。日本経済のバブル崩壊も30年ちょっと前のことだ。「約30年間」前記のように、スポーツの地域密着化が始まった時期と符合している。この30年間のうちに、気候変動を背景に自然災害のコストも増大している。既存インフラの老朽化も課題だ。
 少子高齢化、防災、既存のインフラ改修…と様々なニーズが広がる一方、経済停滞、財政逼迫、人口減少が起こっている中では、一般市民レベルでは「スポーツの優先順位」は必ずしも高くなるとはいえまい。

 こうした中、来シーズンのJ1ライセンス申請を行ったJ2ブラウブリッツ秋田が、新スタジアム整備計画の遅延などのために必要な要件を満たさずに、成績に関係なくJ3に降格する可能性も出てきた。J1ライセンス不交付だけではなく、現在のJ2ライセンスもはく奪されるということだ。

今後スタジアムに求められるもの

 「地域密着の深化を背景にスタジアムや施設に対する競技側のニーズが高まる一方、社会・経済情勢からの逆風は強まっている」野球、サッカーにとどまらず、あらゆるスポーツに共通する課題であろう。どうすればいいか。私なりに方向性を短く書くと、以下になる。
 ・スポーツ施設を市民にとっての「資産」に、そのキーとしてのチーム
 ・市民の健康向上や経済の活性化にスポーツ施設やチームを活用する
 ・施設要件の柔軟化、リニューアルやリノベーションの活用
 ・「スポーツだけの箱物」ではないスポーツ施設の複合施設化

 具体的な方向性やそのために必要な議論は、ここではとても書ききれない長いものとなるだろう。その一方で上記の取り組みを始めているところは、今や日本国内にもいくつもある。私なりにもう1つ挙げたいのは、観戦・プレー双方でのスポーツ教育の視点だ。現在日本では子どもの「スポーツ離れ」が進行している。これが将来世代の健康に影響を及ぼしかねない。子どものときからスポーツに慣れ親しむ環境をチームとともに作り、未来への健康を作っていく。これが新たなスポーツ施設に求められる大きな役割に思う。
 「スポーツ施設やチームが市民生活を向上させる、未来の健康をつくる「ハブ」としての資産となっていく。」この道筋から施設整備の在り方を考えることが、どのスポーツに関しても重要であり、これがスポーツの社会的地位の向上にもつながるだろう。

(参考)
総務省統計局「人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)結果の要約」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2022np/index.html
総務省「地方公共団体の主要財政指標一覧」
https://www.soumu.go.jp/iken/shihyo_ichiran.html
笹川スポーツ財団「子どもの体力低下と小学生のスポーツクラブ離れ」2022.8.25
https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/column/202208.html

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