チャリチャリの「消費カロリー」はどう計算している?

 福岡市ほか東京都・名古屋市・熊本市で自転車のライドシェアサービスを展開するチャリチャリ。私の住む福岡市では、この赤い自転車を毎日のように見かけるようになった。そして、私もそのユーザーの1人である。
 このチャリチャリでは、ライドごとに、走行時間、走行距離、消費カロリーが以下のように記録される。


 走行時間はスマホで鍵を開けてから閉めるまでの時間を測ればよく、走行距離は自転車についたGPSでほぼわかるだろう。では、消費カロリーはどうやって出しているのか??

ロジカルには消費カロリーは「計算不可能」

 ロジカルには、今のシステムでは、チャリチャリが消費カロリーを測定するのは不可能だ。
 消費カロリーは、以下の式で表されることが多い。

   消費カロリー(Kcal)=METs × 運動時間(h) × 体重(kg) × 1.05

 METsとは運動強度を表す単位で、安静に座っている状態を1METsとして、運動の強度表した値になる。1METsは、安静時の酸素摂取量3.5ml/kg/分を1としたときの運動強度に相当する。各運動や活動のMETs量は、(独)国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」(2012年4月11日改訂)などに示されている。
 上記式に基づけば、消費カロリーは、そもそも体重のデータがなければ計算できない。実際、消費カロリーを計算するほとんどのサイトがでは体重の入力が必要である。ところが、チャリチャリに対しては、体重のデータを登録、提供した記憶が私にはない。プロフィールを確認したが体重のデータはなかった。つまり、チャリチャリは、計算に必要な体重のデータがないまま消費カロリーを出しているのだ。

チャリチャリが計算する消費カロリーの分析

 では、チャリチャリは、どのように消費カロリーを計算しているのだろうか?チャリチャリアプリに表示の消費カロリーと走行時間、走行距離、平均速度の3指標の相関につき回帰分析を行ってみた。なお、平均速度はアプリには表示されないが、走行距離と走行時間から算出可能な平均時速に基づいた。

 その結果は以下の通り。

 

 何と、走行時間と消費カロリーとの間には、ほぼ100%の一直線と言っていい相関が認められた。決定係数は約100%である。走行距離と消費カロリーとの間にも、決定係数が約95%の高い直線の相関が認められる。速度と消費カロリーの間には、相関は全くと言っていいほど認められなかった。
 仮に切片をゼロとした場合の相関は以下の通り。理論的にはこちらの方がむしろ適切かもしれない。相関係数はこちらの方が高く出ている。

 

 ランニングのケースを考えれば、理論的には、走行距離に100%でないにしろ相関すると考えられる。RUNNETサイト(出典は末尾に記載)によれば、「ランニングでは、1km走るのに、体重1kgあたり1kcal消費するといわれ、体重50kgの人なら1kmのランニングで50kcalの消費になります。」とある。これを裏付けるように、「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」では、ランニング速度とMETs量は以下のように記載されていた。だいたい1㎞/時で1METsである。ただし、速度が高くなるとMETs量の上昇幅は小さくなる。
・6.4㎞/時→6.0METs
・8.0㎞/時→8.3METs
・8.4㎞/時→9.0METs
・9.7㎞/時→9.8METs
・10.8㎞/時→10.5METs
(以下略)

 こう考えると、チャリチャリの測定する消費カロリーに関して、走行距離より走行時間の方がやや高い相関を示していることには、少々違和感がある。チャリチャリによる自転車ライド場合、信号待ちにより止まっている時間が長い場合、短い場合がある。この2ケースで消費カロリーが全く同じとは、直感的にも説明しにくい。

チャリチャリの消費カロリー計算法は?

 私が思うに、誰かペルソナとなる人を設定、そのペルソナの体重を想定しているのだろう。一方で自転車運動の単位時間あたり運動量、すなわちMETsも設定し、METs、体重、走行時間から消費カロリーを推定しているとみられる。
 「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」では、自転車に関しては、ランニングほど厳密に速度とMETsの相関に関しては書かれていない。ただし、以下の記載がある。
・レジャー、8.9km/時→3.5METs
・レジャー、15.1km/時→5.8METs
・16.1-19.2km/時、レジャー、ゆっくり、楽な労力→6.8METs
(以下略)
 上記チャリチャリがイメージしているユーザーの走行は、おそらく、一番遅い8.9km/時で3.5METsのケースと考えられる。これにならうと、チャリチャリのライドによるMETs量は、3.5METsと仮定できる。
 また、相関分析(切片ゼロ前提)では、走行時間と消費カロリーの相関は以下に出てきた。
   y = 2.9031x
(x:走行時間(分) y:消費カロリー(Kcal))

 これをもとに、
  消費カロリー(Kcal)=METs × 運動時間(h) × 体重(kg) × 1.05

の式に基づき、ペルソナとなる人の体重を推定した。実質的には、そのペルソナの体重をxとして、以下の方程式を解くこととなる。

  2.9031 = 3.5 × 1/60 × x ×1.05

 その結果、ペルソナの体重は、47.4㎏となる。

 実は、これは別に、以下の走行距離と消費カロリーの相関式から推定する方法も考えられる。
  y = 15.156x
 (x:走行距離(㎞) y:消費カロリー(Kcal))
 
 ここから、ペルソナとなる人の体重を推定すると36.7㎏となった。ずいぶん軽い気がする。走行時間との関係から考えた方が論理的には説明しやすい。

まとめ

 おそらく、チャリチャリは、以下の考えで、消費カロリーを概算している可能性が高い。
・体重の軽い女性がゆっくり走行することを想定
・この前提で単位時間あたりの消費カロリーを決定
・上記水準に走行時間を乗じて消費カロリーを計算
・消費カロリーの数値はできるだけ控えめに出す

 私が察するに、その背景には以下の考えがあるだろう。
・カロリーは多くのユーザーの関心事である。
・体重はサービスの提供には関係のない個人情報で、その提供に神経質な層もいる。
・消費カロリー表示はサービスのオプション的な部分で根幹ではなく、高い精度は不要。
・消費カロリーを大きめに出すと、仮に出された数値に見合ったダイエット効果が得られなかった場合、ユーザーの落胆度が大きくなる。また、クレームをつけられるリスクも高くなる。
・消費カロリーの大きさをユーザーが競い合うようになれば、各ユーザーが利用する自転車を高速で飛ばしあう危険がある。こうなると、事故やマナー違反のリスクが増える。
・以上の状況から、高精度は求めず、体重の重くないペルソナ、低速走行を前提として、時間に比例して控えめに出すようにした。

実際はどうなのだろうか?私の仮説は正しいのか?また聞いてみたいものだ。

【参考】
厚生労働省「身体活動・運動の単位」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/s1109-5g.html

公益財団法人長寿科学振興財団「運動強度とエネルギー消費量」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-kiso/undou-energy.html

RUNNET「ダイエットにランニングが最適な理由」
https://runnet.jp/smp/community/beginner/bearunner/effect/2093609_2717.html#:~:text=%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%A7%E3%81%AF%E3%80%811km%E8%B5%B0%E3%82%8B%E3%81%AE,%E3%81%AE%E6%B6%88%E8%B2%BB%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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